夏の色

できている現パロです。大学生(教生?)ベレトと高校生アッシュ その2






 

 ゆるく繋いでいた手を、何の気なしに恋人繋ぎに変えた。一度離して指を絡めて繋ぎ直すと、ぎゅっと少し強く握り返される。それが喜びの表現だというのは顔を見なくてもわかるが、見るとアッシュはやはり、堪えきれないといった様子で笑みを浮かべていた。

「…誰かに見られないといいですけど」

「別に見られても構わない」

 陽が沈んで少しは涼しくなったかと思い外に出るとまだ日中の熱気が辺り一帯にわだかまっている。この暑さのせいか人はいない。手を繋いで向かう先はスーパーマーケットだった。彼らは一緒に過ごす時は専ら自炊をする。お互いに、特にアッシュは料理が得意なのもあるし、意外に量を食べるベレトにとっても外食より諸々の面で都合が良かった。

 たくさん作ったご飯をたくさん食べてくれる先生を見てるとうれしいんです、とテーブルに乗り切れないほどの料理をどんどん配膳しながらアッシュがいつか言っていたのをベレトは覚えている。その料理が美味であったことも。自分でも多少の自炊はするが、どこか大雑把な自身の料理とは明確に違う。センスだな、と思ったし実際にアッシュに伝えると、「そんな大袈裟ですよ」と謙遜して笑った。

 一人暮らしの男の部屋には似つかわしくない香辛料の瓶が一揃いキッチンにあるのをベレトは好ましく思っている。自分では殆ど使わないそれらはアッシュが買い揃えたものなのだった。

 そんなことを思い起こしながら、クーラーの効いたスーパーマーケットに入る。率先して買い物籠を持って青果コーナーをうろうろしていたアッシュが自分を呼びながら手招きするのを見てベレトはすぐにそちらへ向かった。

「黄色いスイカと赤いスイカって何か違うんですかね」

 見ると半割りのスイカが二つ並んでいる。右が赤で左は黄色。品種は違うようだが味の違いはわからない。左右に目をやりながらベレトは「食べ比べてみたいな」と呟く。

「先生なら絶対そう言うと思いました」

 そう笑いながらアッシュは籠に半割りのスイカを二つ入れ、「これは籠がもう一個いりますね」と言って買い物籠をもう一つ取りに走った。


 一人暮らしに適した冷蔵庫は容量が少なく、半割りのスイカ二つ入れるのも一苦労である。

「ていうか入りませんねこれは……かぶりついて食べたかったですけど、実を細かく切ってタッパーに入れてみたいな感じにしないと無理そうかな」

「いっそ大きい冷蔵庫を買うか」

「いっそって…スイカひと玉分を入れる機会なんて全然ないと思いますよ?」

 思わずアッシュが笑うもベレトは大真面目な顔を崩さない。

「いや、将来的にも」

「? とりあえずスイカ切りますね。冷蔵庫におさまるようにしないと」

「任せた」


 先生ってたまによくわからないこと言うんだよな、そこがおもしろくて好きなんだけど。

 などとアッシュは思いながら鼻歌まじりにスイカを切り分けて細かくしていく。リビングではベレトが猫に餌を与えているのが見える。週に一度だけのこんな時間がアッシュにはとても幸福だった。

 結婚なんてしたことないし想像もつかないけど、新婚ってもしかしてこんな感じなのかな。

 夢想しながらも手は止めずスイカを切り終わった。保存容器数個分にもなった赤と黄色の果実をどうにか冷蔵庫に押し込め、そのまま夕食の準備に取りかかった。


 夕食と入浴を終え、冷えたスイカを食べ比べる。

「……わかります? 違い」

「どちらも甘いし、うまい」

「あはは、ネットで調べたりしたら詳しくわかるのかもしれないけどまあいいか」

 それでも一応交互に食べ、わずかな違いを探し出したりしようとして、黄色のほうが甘いかも?などと言って笑っているとふいにアッシュの口もとにベレトの指先が触れる。何かと思い隣に座るベレトのほうを向くとキスをされる。

「甘いな」

 そう呟くベレトのくちびるに今度はアッシュのほうからくちづける。だんだんと深くなっていくキスに目を閉じて、服の下から忍び込んできたベレトの手の感触に身体が熱くなっていく感覚に酔いながら、スイカは黄色いほうが甘いのか、とアッシュはぼうっとする頭の片隅で考えた。


 目を覚ますと隣にいた筈のベレトの姿がない。時刻は深夜2時をまわったところだった。服を着てリビングに行ってみると暗闇の中でテレビのみが光を放っている。正面のソファに座るベレトが観ているようだった。

 先生、と声をかけるとベレトが振り向いた。

「起きたのか」

「何観てるんですか?」

 いそいそと隣に腰かけるアッシュにベレトは若干気まずそうにDVDのパッケージを見せる。ジャケットには有名なホラー映画のタイトルが記され、おどろおどろしい怨霊のCGが大写しとなっている。

「こ、これは……」

「何故かすすめられて人から借りた」

 DVDジャケットからテレビ画面に視線を移すと悲鳴とともに女性が大量の怨霊に襲われている場面だった。あまり観ていたいものではなく、画面から目を離すついでにベレトのほうをちらりと見ると当然のように涼しい表情で「アッシュは観ないほうがいいかも」と言う。

 じゃあ今からでも一緒に寝室に戻りましょう、などというわがままは言える筈もなく、かと言って一緒にいたいのも譲れなかった。暫し悩んで、覚悟を決めて隣のベレトの服の裾を掴んだ。

「僕も一緒に観たいです」

「お化け苦手なのでは」

「もう平気になりました、……たぶん」

 いったいいつから、と突っ込みたくなったベレトだったが、怯えながら密着してくるアッシュを見て何も言わずにおくことにした。

 アッシュが起きてきた時点で別に観るのをやめても良かったが、せっかくなのであと10分ほど観ることにしたのだった。