2023.02.28 10:30祈り「誰も失いたくないと思うのは贅沢なことなのでしょうか」 そのリュールの問いかけにクランは少し考えた後、わずかに首を振った。夜も更けた時間の寝台の上、二人並んで天井を見ていた時だった。 ソンブルとの決戦が近づくにつれ、戦いは苛烈さを増していった。自ら先頭に立って剣を振るうリュールは誰に言われるまでもなく敵の戦闘力を肌で感じていたし、それだけに不安は濃い影のように彼の後ろを付き纏った。 誰かを失うかもしれない恐怖。「私は怖いんです、情けないですけど……戦場に立っている間はあまり考えないようにしてるんですが……」 そこまで言うとリュールは自嘲的に笑った。 神竜様がこんな表情をするなんて、とクランの胸は痛んだ。そして思う。こんな戦いなんて無ければそんな顔をする...
2023.02.19 10:40夜はこれから クラン、と困ったような表情でリュールに呼びかけられて、初めて自分が瞬きもせずにじっと固まっていたということに気づいた。はっとして顔を上げると、向かいに座ったリュールが左右異なる鮮やかな色の瞳を細めて微笑むのが見えた。「よかった、目を開けたまま寝てしまったのかと」「すみません! ちょっとぼんやりしてしまって」 笑って応えながら何気なく合わせた視線を外せなくなる。いつもそうだった。その吸い込まれるような瞳の色を、傍らにいた妹と初めて見たときから変わらない。 堪えきれなくなって想いを伝えて、晴れてこうして一緒に過ごすようになってもなお、ますます気持ちが膨らんでいくようで、クランは近頃自分が少し恐ろしかった。「何をそんなに熱心に見ていたんですか?」 言って、...