2021.07.17 06:12diary サーバルキャットを動物園に返して一週間が経った。 寂しくないといえば嘘になる。ベッドに座ればあいつも座ってきて、擦り寄ってきた。その時の温かさや柔らかい毛並みの触り心地を思い出すと喪失感に襲われたが、今は元通り家族と仲良く暮らしているのだと思うとどうにか持ち直すことが出来た。その繰り返しで不在に慣れつつあった。 ブラッドとの個別面談の時間が長引いて少し遅くなってしまった。部屋に帰ると銃の手入れをするガストの姿があった。「おーお帰り、遅かったな」「……お前も珍しいな、最近いないことが多いのに」「今日は用事ねぇんだ」 弟分のごたごたの世話か何かをしているらしい。いつもながらご苦労なことだと口には出さず呟く。部屋着に着替えてベッドに座ると目を閉じて一息つい...
2020.11.20 14:25平熱 要するにそれは初恋というものらしかった。 しかし俺はそれを絶対に認めたくなかった。『鴨などの雛鳥は、孵化した直後に出会った動く物体を追いかけてついて行くようになるんですね、これを刷り込みといいます』 よく分からないが何だか少し耳が痛かった。 朝からやっている動物の番組を、コーヒーを啜りながら適当に見ていたらこんな気分にさせられるとは思いもよらなかった。 例えばマリオンが今のこの番組を一緒に観ていたからといって、「これはオマエとガストの関係に似てるな」などと言うとは思えなかった。恐らく気にしているのは俺自身だけで、その証拠に、「エスプレッソカップが見当たらない」と探し回っているガストは画面を見さえもしていない。 何もガストの後ろを俺がついて回っていると...
2020.10.12 14:18ハロウィン ハロウィンの街は笑いさざめく若い女性や子供たちで溢れていた。 その街中で、神父に扮しクッキーを配るレンは女性たちの好奇の視線に晒され、辟易していた。菓子の包みを渡せば笑って走り去る無邪気な子供たちはまだ良かった。神父さま、写真一緒にいいですか?などと笑いかけてくる女性たちには困惑する他なかった。トリックもトリートもありはしない、ただ仮装しているヒーローと撮った写真をSNSにアップしたいがために無遠慮にスマートフォンのカメラを向けてくる。わらってくださーい、と泣きたくなるような軽い調子で煽られても笑顔など作れる筈もなく、辛うじて口角を上げるのみだった。隣でピースサインを作り微笑む女性から甘い香りがした。もう嗅ぐのもうんざりするようなバニラオイルの匂いに...